データ復旧センターには日々、HDDの故障などが原因で失われたデータの復元依頼を承っています。そんな中、殆どのお客様から頂く共通のご質問があります。それは、
「故障しにくいハードディスクのメーカーはどこですか?」
というものです。二度とデータが失われる事態にならないよう、少しでも故障率の低いHDDを導入したいがためにそのような質問をされます。弊社ではこのご質問に対し、以下のように回答しています。
「どのメーカーのHDDもいずれ故障します。常時バックアップが大切です。」
バックアップさえあればハードディスク故障なんて問題にはなりません。本端末・バックアップ端末が同時に壊れない限りデータが失われることがないからです。各端末の故障率が100分の1だとすると、同時故障の確率は単純計算で10,000分の1(100×100)まで下がります。バックアップ端末が増えれば増えるほどデータ消失率は低下します。
とはいえ、この回答では「どのメーカーが故障率が低いか」という疑問への回答にはなっておりません。弊社に寄せられる復旧依頼のHDDメーカーを多い順に紹介すればいいかも知れませんがあまり参考にはなりません。なぜなら、流通量の多いメーカーほど復旧依頼が多いからです。また、古いモデルや障害原因も様々であったり、使用環境が同一ではない点を考慮すると参考となる基準が定まらないからです。
故障しにくいHDDを知るには、以下の点を留意した統計を知る必要があります。
このような情報を知りえるサービスといえば「データセンター」でしょう。データセンターは常時多数のHDDが使用され、使用環境も同一であり使用量(日数)も管理されているからです。データセンターは世界に多数ありますが、その中でBackblaze社がHDD故障率に関する統計を4半期ごとに公表しています。このデータを基に故障しやすい&故障しにくいハードディスクを紹介していきます。
当記事で参照としたBackblaze社の内容は2019年第1四半期の統計を参照しています。
Backblaze Hard Drive Stats Q1 2019
参照URL:https://www.backblaze.com/blog/backblaze-hard-drive-stats-q1-2019/
Backblaze社は海外企業ですので、統計内容は英語にて記載されています。このままでは判りにくいですので、日本語に訳したものを記載します。
メーカー | モデル | 容量 | 台数 | 使用日数 | 不具合数 | 年間故障率 |
東芝 | MG07ACA14TA | 14TB | 1,220 | 109,404 | 1 | 0.33% |
HGST | HUH721212ALE600 | 12TB | 520 | 14,040 | 1 | 2.60% |
HGST | HUH721212ALN604 | 12TB | 4,872 | 259,749 | 4 | 0.56% |
Seagate | ST12000NM0007 | 12TB | 34,708 | 2,955,025 | 180 | 2.22% |
Seagate | ST10000NM0086 | 10TB | 1,203 | 108,555 | 3 | 1.01% |
HGST | HUH728080ALE600 | 8TB | 1,001 | 93,598 | 3 | 1.17% |
Seagate | ST8000DM002 | 8TB | 9,874 | 888,741 | 29 | 1.19% |
Seagate | ST8000NM0055 | 8TB | 14,381 | 1,294,451 | 58 | 1.64% |
Seagate | ST6000DX000 | 6TB | 1,023 | 135,832 | 1 | 0.27% |
WDC | WD60EFRX | 6TB | 89 | 30,523 | 1 | 1.20% |
東芝 | MD04ABA500V | 5TB | 45 | 4,050 | 0 | 0.00% |
HGST | HMS5C4040ALE640 | 4TB | 2,557 | 313,383 | 2 | 0.23% |
HGST | HMS5C4040BLE640 | 4TB | 12,753 | 1,172,824 | 11 | 0.34% |
Seagate | ST4000DM000 | 4TB | 19,785 | 1,989,429 | 107 | 1.96% |
東芝 | MD04ABA400V | 4TB | 99 | 12,662 | 0 | 0.00% |
合計 | 104,130 | 9,382,266 | 401 | 1.56% |
上記の表でもっとも重要なのは年間故障率です。年間故障率はAFRのことです。AFRとはAnnual Failure Rateの略であり、ハードディスクの年間故障率を表します。AFRが100%であれば1年間に1回故障するという意味になり、50%であれば1年間に0.5回(=2年間に1回)故障するという意味になります。以下、当記事における年間故障率はAFRといいます。
それでは、各メーカーごとに考察してみましょう。
東芝製HDDは4TB、5TB、14TBの3モデルの情報が公開されています。その内14TBのモデルのAFRは0.33%であり、4TB・5TBのモデルにいたっては0.00%と非常に優秀な数値となっています。ただし、どのモデルも他モデルに比べ台数・使用時間が少ないため統計学的な信頼は考察の余地があります。しかし、比較的故障率が高い大容量モデルにおいてもAFRが0.33%というのは非常に故障率が低く短期的な使用における信頼性は高いと考えられます。同一メーカーの平均AFRは0.11%であり、他メーカーに比べ最小となっています。
HGST製HDDは4TB~12TBの5モデルが公開されています。AFRは0.23%~2.60%です。突出して高いのは「HUH721212ALE600」であり、使用日数が短いにも関わらずAFRが2.6%と最も高い数値となっています。しかし、同じ12TBモデルである「HUH721212ALN604」はAFR0.56%と低い数値となっています。その他のモデルは使用時間から勘案してもAFRは低い方です。同一メーカーの平均AFRは0.98%となっています。
Seagate製HDDは4TB~12TBの、他メーカーに比べ最も多い6モデルが公開されています。AFRは0.27%~2.22%であり、6モデル中5モデルが1%超となっています。同一メーカーの平均AFRは1.38%であり、メーカー内で最も高いAFRとなっています。
WDC製は6TBの1モデルしか情報公開されていないため、他メーカーに比べ統計的な信頼については考察の余地があります。公開されているAFRは1.20%であり、Seagate製の平均AFRに近い数値となっています。
上記をまとめると、単にAFRにて比較した場合は東芝製のハードディスクが最も故障率が低く(平均AFR0.11%)、Seagate製HDDが最も高く(平均AFR1.38%)なっています。数値だけ見ると東芝製のHDDが故障率が低いと見れますが、Seagate製HDDは安価なものが多いため、コストバランスを考えると優劣はつけ難くなっています。
また、上記統計はクラウドサーバー用のHDDとなっており、高い耐久性を持つハイスペックモデルが中心となっています。市販の一般的なHDDは耐久性が低くなることも考えられるため、故障率は上記データ以上と考えるのが無難でしょう。また、外付けHDDを購入する場合は中身のHDDメーカーが不明な場合がありますので注意が必要です。
繰り返しますが、データ保護の観点で肝心なのは故障率以上に重要なのは「バックアップ体制」です。複数のストレージにバックアップをとることでデータ消失の危険性を低減できます。具体的な方法としては、「2個以上のメディアに定期的にバックアップを取る」「RAID1(ミラーリング)のNASを使用する」などがあります。
万一、HDD故障などによりデータ復旧が必要な場合は弊社のハードディスクデータ復元サービスをご検討ください。
※当記事は特定のHDDやメーカーを推奨するものではありません。また、データは弊社外のものを参照としており内容の正確性については保証致しかねます。